漆黒が隠す涙の雫

これは、絶好のチャンスかもしれない。


だから俺は、新について行くことにしたんだ。








『ちょっと待ってろ。今、愛華に連絡する』


お世辞にも綺麗とは言えない年季の入ったアパートの前。


バイクを止めた新はそう言うと、スマホをいじり始めた。


…こいつ…こんな所に住んでたのか?


フルフェイスのヘルメットを外し、新が愛華と住んでいるというアパートを見上げながら、俺は思わず眉を顰めた。


新が家にいない夜、いつも愛華は一人で家で待っていると新が前に話していたことがある。


今だってきっとそうだ。


こんな夜更けに、こんな防犯もへったくれもないようなアパートに一人きり。


……大丈夫なのかよ?


その時俺は、無性に心配になったのを覚えてる。


あんな過去を抱えながら、愛華はどんな気持ちで新の帰りを待っているんだろう?


きっと心細いんだろうなとか、怖くはないんだろうかとか…。


自分以外の誰かの事で、こんなにも頭がいっぱいになったのは初めてだった。


だけど、愛華がアパートから出てきた瞬間、あれこれ考えていた思考回路は完全にストップして、目の前の彼女に釘付けになったんだ。



新が忘れた財布を握りしめ、小走りで俺達の前に現れた愛華は、俺達が乗るバイクのヘッドライトに照らされて、その白く血色の良い肌を光らせ立っていた。