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“幹部室”と書かれた扉の前で、私は潤くんに地面へと下ろされた。
「ここにお兄ちゃんがいるの?」
「恐らくね」
さっきまで私達を追いかけて来ていた男達は昴さん達が食い止めてくれているようで、もう追いかけては来なかった。
その代わり1階では激しいやり取りが繰り広げられているようで、怒鳴り声や何かが壊れるような音が聞こえてくる。
たったふたりであんな人数を相手にして、昴さん達は無事でいられるのだろうか?
「あいつらなら大丈夫だよ。ああ見えて喧嘩だけはバカみたいに強いから」
「う…うん」
「それよりも、自分の事を考えて。新に会えば、愛華はきっと傷付く。傷付く心の準備は出来てるの?」
潤くんは、いつものポーカーフェイスで私の顔を覗き込んでくる。
無表情だけど、ちゃんと伝わってくる。
潤くんは、私の事を心配をしてくれているんだ。
…優しい人だなぁ。
お兄ちゃんは、どうしてこの人と決別する事を選んでしまったんだろう?
私に紹介したくらいだ。
きっと凄く信頼していたんだろう。



