溢れてくる涙を躊躇なく零して、お兄ちゃんを見上げながら、言ってしまったんだ。
あの言葉を。
『お兄ちゃん…苦しいよ。
お願い…助けて……』
『……愛華。ごめん。ごめんな。
絶対に…絶対に俺が……
–––––復讐してやるから』
–––––––––
––––
「愛華?」
潤くんが、私の顔を覗き込んでいる事に気が付いて、はっと我に返った。
無意識に腕の傷痕辺りを強く握りしめていた事に気付く。
「顔、真っ青だけど。やめてもいいよ?話」
そう言って、俯いていたせいで頬にかかっていた私の横髪を、耳へとかけてくれる潤くん。
私は、あの出来事の後から“男の人”に触られると失神してしまう体質になってしまった。
触れられた途端、あの日の事がフラッシュバックして、心臓が痛いほど早くなって、苦しくなって、気が付けばベッドの上。
お医者さんからは、自分の心を守るための一種の防衛本能だろうと言われた。
武くんに付けられた傷痕も、傷自体はとうの昔に治っているはずなのに時折ズキズキと痛みだす。
特に男の人に触れられた後は、しばらく痛みが引かない。
だけど、不思議……。
潤くんに触れられるのは嫌じゃない。
腕の痛みもどこか遠のいていくような感じがして、どこかほっとする。
ドキドキと心臓がうるさいのを除けば、お兄ちゃんに頭を撫でられたりした時とどことなく感覚が似てるかもしれない。
「ごめんね。話を続けて?」



