漆黒が隠す涙の雫


住宅街に入った辺りから、誰かが私の後をついてきている気配があったからだ。



施設までの距離は、もうそう遠くはない。



走る?



後ろを振り返るわけにはいかないし、だからといって、このまま後をついて来られたらたまったもんじゃない。


一か八か、距離を引き離せれば……。


『おい』


そう思考を巡らせている間に男の気配が、私の直ぐ背後にあって……。


『キャッ…』


悲鳴を上げようとしたその瞬間、口にハンカチのようなものを当てられ、


『……っ……』



私はそのまま意識を失った。






–––––––

–––



『……ん…』


目を覚ますと、そこは固いコンクリートの上。


数人の男達に囲まれているのが分かった。


私が気が付いたのが分かると、男達はニヤニヤしながら何か耳打ちをしている。


その中に、見覚えのある顔があった。



『武……くん?』



それは、間違いなく武くんの姿で、手足を縛られ横たわる私を満足そうに見下ろしていた。


そして、ゆっくりと口を開いて……。


『お前が邪魔したから悪いんだよ』


そう言って背筋の凍るような不敵な笑みを向けてくる。



『どういう事……?』