漆黒が隠す涙の雫



その直感は、あながち間違ってはいなかったようで、武くんは施設の中でたちまち浮いた存在になっていった。


施設内の子達を恐喝してお金を巻き上げたり、意味もなく暴力を奮ったり……。


そんなのが、彼によって日常的に行われて、それまで和やかだった施設内の雰囲気が一転、毎日ピリピリとした空気に変わっていった。




そんなある日、私は目撃してしまったんだ。



施設内でもひときわ仲の良かった、“望美【のぞみ】ちゃん”という1歳年下の女の子。


その子が、武くんに襲われている所を。


『ちょっと!?何してるの!?望美ちゃん嫌がってるよ!?』


望美ちゃんの涙に気付いた私は、咄嗟に武くんと望美ちゃんとの間に割って入る。


そんな私に武くんは、ゾッとするような冷たい目を向けて、ただ黙って私を見下ろしてきた。


『も、もしまた望美ちゃんにこんな事したら……すぐに、施設長に言うから』




今思えば、何でこの時直ぐに施設長に言わなかったんだろう?


今更そんな事を思った所でどうにもならない事は分かってる。


だけど、どうしたって後悔をしてしまうんだ。


だって、もしもあの時そうしていれば、


きっとあんな事件なんて起こらなかったから……。