–––––––––
––––
私達兄妹は、まだ物心もつかないような小さな時に養護施設へと預けられた、いわゆる捨て子というやつだ。
両親は、悪い人達ではなかったけど、事業失敗で多額の借金を抱え、おまけに闇金にまで手を出して、なくなく私達を手放した……という話を、風の噂で聞いた事があった。
その時の私達からしたら、顔すらもよく覚えていない両親の話。
物心ついた時には、その施設の住人が私達の家族のようなもので、私達がなぜ施設にいるのか…という話を聞いた所で、なかなかしっくりこなかったのを覚えてる。
施設の人達はみんな良い人ばかりだったし、同じような境遇の子達が集まって仲良くやっていたから、私もお兄ちゃんも、特に自分を卑下したり悲観したりする事はなかった。
そんな日々が崩れ始めたのが、私が中学2年生になったばかりの時。
施設にとある同い歳の男の子が入ってきた。
名前は確か、菅野 武【すがの たけし】。
武くんは、人見知りなのかとても無愛想で、影のある男の子だった。
黒の長い前髪の間から覗く鋭い目付き。
おまけに爪を噛む仕草が印象的で、今までわりと誰とでも仲良く出来る質だった私が、その時は直感で「仲良くはなれなさそうだな」と判断してしまうくらい、取っ付きにくいタイプの人間だった。



