漆黒が隠す涙の雫


時間が経てば経つほど、お兄ちゃんが遠くへ行ってしまう気がするんだ。


そんな事を思いながら、弱り顔の昴さんに捨てられた子犬のような視線を送り続けていると……。




「あれ?昴?そんな所で何してんの?」



私の背後からかかる低い声に、反射的に体がビクついてしまった。


「あれー?女の子じゃん!めっずらしー!」


その男は、背後から回り込み私の前へと来ると、私の顔を覗き込み、「うおっ!めっちゃ可愛い!!」と言って、目をぎらつかせた。


ううん。


別にぎらつかせた訳じゃないのかもしれない。


だけど、私にはどうしてもそう見えてしまうんだ。


額に油汗が滲んでくる。



ダメだ……。


この人、嫌な予感がする。



「へぇ?なになに?うちのもんの誰かの彼女?」


「ち、違い…ます…」


「よかった!じゃあさ、連絡先交換しようよ。スマホ出して?」


「いや…あの…」


「……っ修二(しゅうじ)!ダメだ!」


「なんだよー!いいだろ連絡先くらい!」


昴さんの止める声に、聞く耳を貸さない修二という男。


「これ、俺の連絡先ね!」


その男の手が、私の肩へと回って……–––––。




––––––ドックン。



心臓が、嫌な音を立てた。