そう言って、男は後ろ手に隠し持っていたものを
わざわざ私達に見せびらかせてきた。
「チェーンぶっ壊すのに使おうと思ってたけど、やめたわ。」
そして今度は、大きなニッパーをこちらに突きつけて脅すような声でこう言った。
「どうしようか、これでお前等の指の骨を一本ずつ砕いてやるか?それとも有り金を全部俺に差し出すか。どっちにする?」
「わかったよ。俺の財布を渡すから、今日はもう勘弁してよ。ナオだって明日からまた学校なんだ。通えなくなったら自分だって困るだろ?」
「ようし。じゃ、今すぐ出せよ。」
お兄ちゃんは渋々に自分のポケットから小さな財布を取り出すと、それを父親に手渡した。
父親は中身の折りたたまれた数枚のお札だけを抜き取ると、
ポイと財布を床に投げ捨てる。
ジャラジャラとその辺に撒き散った小銭を、
お兄ちゃんは静かに拾い集めた…。
最悪だ・・・。
こんな奴があろうことか自分の父親だなんて、
例え設定であっても許せなかった。
それなのに…
さっきから見ているだけで、何もできない自分が一番サイアク。
「あ?小僧…、なんだその目つきは?」
「ナオ…、別に兄ちゃんは大丈夫だから。な?」
どうしよう。
これは試練だ。
だけど、憎悪が止まらない。
こんな非力な身体で
やめておけばいいのに。
どうせ一度は捨てた命なのだからと、
自分の中の誰かがどこからか私を鼓舞してる。


