ふたりぼっちの指切り

いつだって、なくしてはならないものほど手をすり抜ける。気づいた時には戻れない。

言うべきだった言葉も、伝えたかった想いも、そうして時の中に放られていく。

それでも言うべきだったのだ。
今度は両手で、加代の右手をしっかりと包んだ。

本当に言いたかった言葉は、奥の方に仕舞ってしまった。取り出そうとすると痛みを伴って、誰かの笑みを思い出してしまうから。

「おやすみ」

懸命に涙をこらえ、精一杯の力で頬の筋肉を動かす。

最期の別れになると知っていた。
それでも何も出来なかった。
そして、今頃になって、彼女の言葉を思い出す。

『嘘のような現実は、現のような夢より残酷だから、きっとその方が心を抉る』

だからこそ記憶に残る。
だからこそ人を育てる。

そう、言った彼女を覚えていて、これは現実。

彼女におやすみと告げた今も、嘘のような現実。未だに実感の湧かないような夢に似た現実。

抑えた声音の嗚咽が、透明な夜に昇る。

夢の中で笑う彼女に、現で少年は別れを告げた。

力を込めた指先に、弱々しく力が返ってきたと思ったのは多分想像だが、想像でなければいいと良は思った。

その瞬間、酸素マスクの下で微かに息をしている加代が、ぴくりと薄目を開けた。