ふたりぼっちの指切り

「実在するかも分からない偶像に対して感情を抱くなんて愚かなことだよ。それで精神を病んでしまっては元も子もない」

「だからといって、なぜあなたを憎むという話になるわけ」

「僕にも責任の一端はあるかもしれない。ちょっと、思うところがあるんだよ」

気難しげに言うのを見て、少し首を傾げた。

「どうして?」
「…言わなくちゃ分からないかな」

困ったように笑った良の声の響きは、苛立ちは含んでおらず、ただ躊躇うようだった。

「僕が君を色々怒らせたみたいだからね。そのせいで君が母親を気遣うほどの余裕をなくしたのならあれだし、一理くんを逆撫でしたのも僕かもしれないし」

一理という言葉を発した瞬間、普通なら気づかないほどのほんの一瞬、良は針で刺されたような顔をした。

加代はため息をつく。
「良って本当に優しいのね。疲れてしまうくらい」
「ごめん」
謝らないで、と首を振る。

「私こそごめんなさい。こんなこと言いたかった訳じゃないの、ただ。あなたはいつも、誰かのために無理をしてしまう性分のようだから」

それくらいは、分かる。
1ヶ月ほどしか時間を共にしていなくとも、一緒にいたら分かるのだ。