「この蝶はさ、世界一綺麗な蝶って言われる蝶に似てるんだ」

やがて、ぽつりとこぼした良に、加代はあっと声を上げた。
「それ、もしかしてモルフォ蝶のこと?」
良は目を瞠り、
「よく知ってるね。そうだよ」
どこか悲しげな響きを含んだ返答に、加代は言葉に悩んだ。

「『天国の青い蝶』って映画、知ってる?」
「ごめん、知らない…」
「そっか。わりと有名なんだけどな」

明るく声を出した良に、加代はそっと聞いた。

「どんな映画なの?」
「…うーんとね…余命僅かな脳腫瘍を患った少年が、青い蝶…つまりモルフォ蝶を、熱帯雨林に探しに行く話なんだけど、言葉では語りきれないなぁ」
「そうなんだ」

余命僅かな、というところに思わず鼓動が跳ねた。心臓が小さく早鐘を打ち始め、平静を装おうと汗の滲む手のひらを握りしめた。

「その映画を小さい頃DVDで見たんだけど、不思議とすごく記憶に残っていて」
優しい表情に、加代はなんとなく微笑んだ。
「その映画、好きなんだ?」
「うん。父が生きてる頃三人で見た映画は、それが最初で最後だったんだ」

あどけない笑顔が、ようやく少年を年相応に見せた。