ふたりぼっちの指切り

「何も悪くないから。加代は悪くない」

何度も繰り返してくれる言葉が、胸の奥にわだかまっていたものを溶かしていく。

「なんで…」
これほど来て欲しいと思った時に来てくれるの。

枯れた声で囁いた加代に目を合わせて、良は開いた睡蓮花のように笑った。

「加代が呼んだんだろう」

呼んでなどいない、と言いかけて加代ははっと言葉を呑み込んだ。

確かに呼んだのだ。心の中で。

それが伝わったとでも言うのだろうか、と上目遣いに良を見た加代の腫れた目元を、少年はそっと拭った。

「加代の声なら、聞き分けるよ。たとえ夢の中でも、どこへでも」
「なにそれ…」
漫画のような台詞に、思わず笑ってしまう。
それほどの価値のあるすごい自分だとは自分を思えないけれど、良の想ってくれる自分はそれなりに良いのだろうか、などと馬鹿なことを考えて加代は赤面した。

「すぐ赤くなる」
「うるさい」

言い返した加代は、くすくすと笑った。

「ありがとう。すこし、心が軽くなった」

いつも、君は素知らぬ顔で、流れる時間を優しいものにしてくれるから。だから、大したことも出来ない私だけれど、その何分の一かでも何かを返すことが出来たらと思うのだ。