ふたりぼっちの指切り

夜の淵が目覚める頃、加代は大きく欠伸をして呼びかけた。

「お母さん…今、何時…」

だが、そこに居てくれるはずの母の、返ってくるはずの答えがない。

「お母さん?」

目が醒めた加代が上体を起こしたが、病室には窓からのそよ風が吹くばかりだった。

薫風に目を細め、どこへ行ったのだろうと考えを巡らしたが、視界の端に広がった髪の毛を見て息を吸いこんだ。

がばりと音がしそうに掛け布団をまくり上げ、スリッパに足を下ろした加代は、足をまろばせながら足元に倒れていた母に駆け寄った。

「誰か…っ」

すがるように声を出した加代はナースコールが目に入って逡巡した。これは自分の病状が悪くなった時に使うものだろうが、呼び出すために使っていいのだろうか。

迅速に判断を下した加代は、ナースコールを押した。

「どうしました桜木さん」
すぐに看護師の一人が部屋に入ってくる。
その胸には、吾妻と書いたネームプレートがあった。

見るなり状況を察した吾妻は、懸命に唇を引き結んで母を抱きかかえている加代の背中を優しく叩いた。

「大丈夫ですよ、このお医者さんがお母さんを看てくれますから」

看護師の後に続いて入ってきた医師を見て、やっと張り詰めていた息がほどける。

「母を、お願いします…」

すぐさま運び出された母の青ざめた顔色を見つめて加代は呟いた。