ふたりぼっちの指切り

あの一秒にも満たない刹那に、せめて目を開けていられたら変わっただろうか。

そんな埒もないことを延々と考える加代の様子は、鬼気迫るものだったという。

一度、それを聞いた良が来てくれたが、ろくに話もできず放心状態の加代を見て、黙って花を置いて立ち去った。

(…駄目だ…)
このままでは、何かが手遅れになる。
だれも望まない結末に、導かれるように加代は今自分が進んでいるのを感じていた。

手を伸ばして、裏返したり見つめてみたりする。
変わらない自分の手だ、なのに。
空っぽなものを掴んだまま、大事なものを掴み損ねたような印象を受けてしまうのはなぜだろう。

手のひらからこぼれ落ちたのは運命か希望か、そんなふうに象徴的な言葉で誤魔化せない、代わりに出来ない何かなのか。

中身のないことをつらつらと、夜明けまで考え込んでいた。
彼の最期の声が何度も何度もリフレインして、寂しい声音が染み付いた。

殻に閉じこもる加代の痛々しい姿に、晶子も良もかける言葉が見つからなかった。
顔色は悪くなっている気がするのに、体調は安定して数日と言われた余命も一週間は過ぎていた。

だが、既にそれを悪い方へ悪い方へと考えてしまう癖が加代にはついてしまった。

(偶然なのは分かってる。仕方なかったのはわかっている…)

それでも、自分が生き延びられていることが後ろめたく、許されないことのような気さえした。まるで一理の残りの時間を自分が吸い取ったような気さえしてくる。

天井を仰いだ加代は、疲れて目を閉じた。
閉じる前、なんだか頭の奥がざわざわした。

今から思えばそれは、人が虫の知らせと呼ぶものだったのかもしれない。