ふたりぼっちの指切り

しばらく口を開けたり閉めたりした加代は、やっとのことでか細い悲鳴を上げた。

目の前には、ただ青空が広がるばかりだった。

「……ち、り」

いちり。一理。
力の抜けた足腰を奮い立たせ、予想してしまう光景を嘘だと笑い飛ばしたくて必死に手すりから身を乗り出した。

咄嗟に口を押さえる。

待って、と言おうとして何に言おうとしたのか分からなくなって口をつぐんだ。おそらくは自分の思考回路の紡ぐ結論を出すことに対して。

二度目に喉の奥からほとばしった声は、自分のものとは思えないほど狂気じみた声だった。

焼き付いた青と赤。
鮮血の匂いがここまで漂ってきそうに錯覚する。
目の奥に残った青空に、凄惨な景色が重なって呻いた。

「どうして」

それは、あるいは理解することを抗う加代の脳が呟いたのかもしれない。

どうしてだって今さっきにも会話をしていたのになんであんなところにいるのねえ、見たくない。

後から、悲鳴を聞いて駆けつけた看護師の一人に、ずっとそんなうわ言を言っていたと聞かされた。

ああ、あと何分か何時間か。
戻らせてなんて嘆いても、非情だと言わせないほどに淡白な現実は振り向いてもくれない。