ふたりぼっちの指切り

「癌だってさ…そんなものなくても、きっと俺は全部放り出してた。なのに」

悔しそうに手すりを握りしめた一理に、知らずのうち駆け寄っていた。

「…加代」
手に手をそっと重ねて、氷のような一理の、体温を離さないように力を込めた。
そう分かっていても、進もうとする勇気を一理が自分にはないと思っているのが歯がゆい。

「必要とされている一理がいる。一理を好きな私がここに、いる」

その意味合いは違おうとも、たしかな感情を好きと言える確信があった。

言わなくても聞こえてる、きっと。
「大丈夫だよ」
だって、君を信じてる。

君を好きになった自分を誇れる。
そのことを、自分を信じてほしい。

一理の中でうずくまる一理を、見つけ出すように見つめた。

「だからこっちに来て、一理」
「…わかった」

息を吐いた一理にほっとして、一歩下がった。
その瞬間、光が手すりに眩しく反射して二人の目を射った。
目を閉じた加代は、小さな叫び声が聞こえた気がして薄目を開ける。
声が出なかった。