ふたりぼっちの指切り

「いつもそんなふうに抱え込んで、私にさえ見せてくれなかった苦痛を最後まで自分だけのものにして、終わりにしようというのなら許さない。私にもあなたの悩みを知る権利はあるはず」

激しく火が燃えるような瞳を向ける加代を、一理は眩しそうに見つめた。

「もう野球、出来なくなってたんだ」
「…え?」
「加代と別れようって決心した時も、野球が辛くなりかけてた」

そして、一理はぽつぽつと語り始めた。

「でも、ここでやめたら、ここで逃げたら、今までの努力はどうなるんだとか、そういうことがいつも頭の中にあった。やり続けたっていう自信が欲しかった。そんなもの、とうになかったのにな。野球が好きだって、世界中に叫びたくなるようなあの瞬間が、どんどん、なくなっていくんだ。いつの間にか辛いものに変わっていて、それを誤魔化そうとして練習に打ち込んだけど、上手い奴らとの差は広がるばかりで」

息つく暇もなくそこまで話した一理は、大きく息を吐いた。

「加代と別れて、その辛さが自分を野球に縫い止めてくれると思ってた。馬鹿だよな、そんなもんで誤魔化せるわけでもないし、その上加代を傷つけたのに」

傷つけた、という台詞に針で刺されたように胸が痛んだ。

私も何回も考えたその言葉。

何度も誰かを傷つけて、傷つけられて、今日まで来た自分が後ろめたくなる。そんなものは全員だと知っていても。

脳裏に刻み込まれる罪の意識が、重さ軽さに関わらず誰しもにあって、それが加代や一理の思い詰めるタイプには顕著だった。

だからこそ、この話を最後まで聞きたい。

彼や自分を救えるような正義が、正論がなくとも、救える気持ちはあることを信じたいと願った。

傷の舐め合いを正当化することには、もう懲り懲りだ。

「結局、最後は逃げたんだ。侵されていく体を無視して、隠して、練習していたのに、やっぱり親に嘘はつけないもんだな」

病気を建前にして逃げたんだ。
そう言った一理の瞳が自分を鏡写しに見ているようで、痛々しくて目を逸らしたかったけれど、逸らしてはいけないと思った。