髪をひるがえして戻った病室では、良が目を瞠って立ち尽くしていた。
「…加代?」
「ごめん私、もう」
飲み込んだ空気が熱くて、肺に痛い。

「良にどんな顔して会えばいいのか分からない」

呆然とする良を横目に見ながら、加代はこめんなさい、と掠れた声で言った。

「今は…出ていって、ください」

懇願の響きになすすべもなくそこをあとにした良の背中に、こんなことは二度目だと思った。

もう決して繰り返さないと思ったのに。
もうこんな形で良を見送ることは嫌だと誓ったのに、そんな気持ちも簡単に揺らいで。
また、今度は個人的な理由で、良を追い出してまで私は何がしたいんだ。

(……わからない)
自分が、解らない。

手すりを握りしめてよろよろとしゃがみこんだ加代は、ポケットからいつの間にか落ちてきたメモのような紙切れを拾った。

「……っ」
目を通し終えて蒼白になった加代は躊躇いを捨て、ドアを開け放つともどかしげに歩を進めた。