「ありがとうございます…」
「タメ口でいいよ。中学二年生の宮城良、君は?」
「桜木加代、です」
「加代さんか。重病患者の棟にいたよね。僕もだ」
隣の部屋なんだよ、と微かに口の端を上げた良に、ひそかに一年歳下だったのかと考えた。
「ちりとりとほうきは看護師さんが持ってきてくれたんですね。ありがとうございます」
いいんですよ、といったふうににこやかな表情でそれで破片を集めてくれている看護師に頭を下げた。
「あと、あの…割れてしまった箱に、蝶が入っていましたよね?」
言ったあとに敬語を使ってしまったことに気づいた加代だったが、良は気にも留めないようで朗らかに首肯した。
「そうだよ。特に珍しくもない蝶なんだけど、一時収集にはまっていて、一番初めにとったんだ。…母さんと」
そう告げた瞬間、きつめの印象を与える涼し気なつり目がちの瞳がふっとやわらぎ、心ならずもときめいた。
しかしそれも一瞬のことで、少年の穏やかな表情もどこか翳り、色白な両手で蝶を丁寧に拾い上げた。
その仕草や目線の一つ一つから、思い出の蝶に対する想いが伝わってきて、加代もつられて目元をやわらげた。
「なんて蝶なの?」
「ルリウラナミシジミ。けっこう珍しくてね、僕が蝶の収集にはまったのは旅行先の石垣島でこの蝶を捕まえてからなんだ」
「きれい…他の蝶はどこにあるの?」
そう尋ねると良は言葉に詰まったように沈黙したが、ようやく口を開いた。
「友達にあげた」
「えっ…全部?」
「うん。病気を宣告されてから」
「…そっか…」
どんな病気なの?とは、さすがに聞けなかった。相槌に困ったが、結局言えたのはそれだけだった。
「タメ口でいいよ。中学二年生の宮城良、君は?」
「桜木加代、です」
「加代さんか。重病患者の棟にいたよね。僕もだ」
隣の部屋なんだよ、と微かに口の端を上げた良に、ひそかに一年歳下だったのかと考えた。
「ちりとりとほうきは看護師さんが持ってきてくれたんですね。ありがとうございます」
いいんですよ、といったふうににこやかな表情でそれで破片を集めてくれている看護師に頭を下げた。
「あと、あの…割れてしまった箱に、蝶が入っていましたよね?」
言ったあとに敬語を使ってしまったことに気づいた加代だったが、良は気にも留めないようで朗らかに首肯した。
「そうだよ。特に珍しくもない蝶なんだけど、一時収集にはまっていて、一番初めにとったんだ。…母さんと」
そう告げた瞬間、きつめの印象を与える涼し気なつり目がちの瞳がふっとやわらぎ、心ならずもときめいた。
しかしそれも一瞬のことで、少年の穏やかな表情もどこか翳り、色白な両手で蝶を丁寧に拾い上げた。
その仕草や目線の一つ一つから、思い出の蝶に対する想いが伝わってきて、加代もつられて目元をやわらげた。
「なんて蝶なの?」
「ルリウラナミシジミ。けっこう珍しくてね、僕が蝶の収集にはまったのは旅行先の石垣島でこの蝶を捕まえてからなんだ」
「きれい…他の蝶はどこにあるの?」
そう尋ねると良は言葉に詰まったように沈黙したが、ようやく口を開いた。
「友達にあげた」
「えっ…全部?」
「うん。病気を宣告されてから」
「…そっか…」
どんな病気なの?とは、さすがに聞けなかった。相槌に困ったが、結局言えたのはそれだけだった。

