「そんなときに恋なんてできる奴だっけ、お前」
「……………」
黙然と俯いた姿が、答えだと見てとった一理はさらに畳み掛けた。

「吊り橋効果?っていうの?同じ境遇だから同情し合って、それを拠り所にしただけじゃないのか。だとしたら、それは恋だと言えない気がする」

そんなこと。

加代は、ぎゅっと唇を噛み締めた。

そんなこと、自分だって何度も考えた。
自分なりに、それだけの理由じゃないと結論づけた。

だのに他人の一言でここまで揺さぶられてしまうのは、他人の目からしてもそうだということが証明されてしまったからだ。

「自分を誤魔化しているだけじゃないのか、死ぬっていう恐怖から」
「………っ…そんな、こと」
ない、とは言いきれなかった。

それが悔しくて、痛くて、握りしめた手が震えた。
傷が膿んで、心が抉られて、あんなに好きだと思った気持ちをずたずたに言われて裂かれて、それでも黙っているしかないなんて。

「さよなら」
「加代?!…っ、逃げんのかよ」

後ろに受けた声が刺さって、溢れかけた涙をすんでで堪えた。