こんなことを言う人じゃなかった。

優しくて、一途で、真摯に野球の練習をする姿を好きになったのに、そんな自分を疑いたくなるほどの変貌ぶりだ。

じっと目を合わせていて、あることに気が付き加代ははっとした。

(…ちっとも、本気だと思えない)
長いまつ毛が影をつくる瞳は、強気に見せているくせに寂しそうに見えた。

(ああ、こういうところ)
私と、似ている。
だからこそ惹かれたのかもしれないと考えたが、それも今となっては昔話だった。

「ごめんなさい」
加代は決心して、二度目の拒絶を口にした。

「大切にしたい人が出来たの」
でも、触れたら壊れてしまいそうな恋だから、確証を持てないようなものだから、言うのは躊躇われていたのだ。

「…お互い重病患者の棟にいるのにか」
「そうだけど」

予想外の言葉に戸惑って顔を上げた加代に、一理は残酷な一言を放った。
「気の迷いじゃないのか」
「なっ…」
「だって、そうだろ」
声を荒らげた一理に、加代は憤慨して勢いよく言い返した。

「何を根拠に言っているのよ、失礼ね。そもそも私達は他人なんだから口を突っ込まれるいわれはないわ」
「俺ならしないぞ」

何気なく言った一理の一言に、加代は色々なものが揺さぶられた気がした。