「今さらじゃない、ずっと前からだった。捨てたっていうのは誤解だ」

「………っ」

どうして今さら割って入って、心をかき乱すのか。

もう捨てたはずの恋だった。

無理矢理終わらせた思いだった。

それを蒸し返すほどの理由はなんだ。

強い抗議の思いを込めて、上目遣いに睨みあげた加代の目に、目を合わせて一理は強がっているようにも見える勝気な表情で笑みを浮かべた。

「俺にはもう明日がないと言っても?」
「…………え」
息が止まった。
「な、んで」
「病気だろうと思いながら、放置していたんだ。馬鹿だよな。隠し切れると思ってた」

まさか。

「加代を捨てたわけじゃない。でも俺は野球を捨てられなかった。病気に脅されたってね」

どちらかを選べと言われて、迷いなく加代を選ぶことは出来ない。

そう言った、あの日の一理の瞳に似ていた。