もしかしたら、そんな思いが脳裏をかすめた。
今は体調もいいし、このまま治るんじゃないか。もしそうなったら、二人で退院できたら、どんなにかいいだろう。

そう、思ってしまった。
だからなのかもしれない。浮かれていた私に、バチが当たったのだ。

「加代?」

背後から腕を掴まれ、聞き覚えのある声に体が固まった。

「………な、んで」

動揺する加代は、ぎこちなく後ろを振り返った。その微かに震えているのを見て、良も訝しげに振り返る。

「どうしてここにいるの、一理…!」
「酷いな、入院するからだよ」

眉を上げて笑う背の高い青年の姿は、悔しいが様になっていた。

「…………」
言葉を探すも見つからず、じりじりと後ずさる加代を庇うように良が前に出た。
「り、」
「黙って」
唇の前に人差し指を立て、良はかすかに笑ってみせた。大丈夫だから、と動いた口を読み取って、不安そうな顔ながらも頷き返す。

何をするのだろう。

「一理さん、というんですか。おふたりがどんな関係かは知りませんが、加代の嫌がる事はしないであげてください」

涼し気な目元を少し尖らせ、警戒する良を見て一理と呼ばれた青年は笑った。

「君こそ何様かな。ちょっと二人にしてもらいたいんだけど」