夢から呼び戻される時、壁越しに伝わるノックに含まれている時、何気ない日常の会話。

そんな中で繰り返される単なる呼びかけかもしれない、それでもたったひとつの名前が、どんどん大切になっていく。

「良」
ああ、伝わればいい。
清廉で優しい、君を表すようなこの響きから、この溢れてしまいそうな大好きが。

「なに」
しらっと顔を覗き込む良に、手慣れているなぁと頬を膨らませる。
何だか意表を突きたくなって、こつんと額を合わせてみた。
「なっ」
慌てて、思わず仰け反ったふうの少年の姿に、加代はにやりと笑みを浮かべた。

「もう、部屋に入りましょう」
そうして、当たり前のように肩を並べられることが嬉しかった。