「馬鹿だね、私達」

こんな明快なことで傷つけあっていた。

「それもそうだな」

苦笑を返した良も、いつもよりすっきりした
顔をしていた。

「良。分かっていると思うけど、言うね」

私、と張ろうと努めた声が震えた。
良の真っ直ぐな瞳の陰影をふちどる長いまつ毛が瞬くのを見て、加代は息を抜いて微笑んだ。

「出会えてよかった。誰よりも」

私の狭くて小さなこの世界に、君がいたことが私の何より誇らしい、ささやかな奇跡だ。

そんなクサい言葉を脳内で言うと、加代はくすくすと笑った。

「名前を呼んで、くれたでしょう」
「え?」
今度は良がきょとんとし、加代は淡く笑った。
何度も、呼んでくれた。
そのたびに、捨てそうだった今を、泣きそうだった夜を、生きていこうと思えた。

呼ばれる度好きになる。
自分の名前も、あなたのことも。
私が私でよかったなんて、思わせてくれるのは君だけだ。