「…………っ……」
顔を上げた加代は、ぐいっと顔を拭って、いきなりの加代の発言に戸惑っている良に視線を合わせた。

誤魔化せない。
自分の気持ちは、どうしたって自分には隠せない。

だって、嫌というほど分かってしまった。

「どんなに拒んでも、どんなに無理をして遠ざけても、もう一度最後に会いたいのは誰かと問われたら、私には良しかいないって」

見つめられて、ドキドキして。
壁越しの合図に、ふわふわして。
最初で最後の恋になる、その予感がしていた。

「馬鹿だな。素直にそう言えばいいのに」

こらえ切れずにむせび泣いた加代の肩を抱き寄せ、あやすように頭を撫でた。

「やめてよ、私より年下のくせに」
睨んだ加代の眼差しは、それでも柔らかく笑っていた。

「なんだよ。年下じゃいけないって差別じゃないか」
むっとしたような素振りをみせつつも、からかう声音を強めた良に、加代は何とかして一矢報いようとするが、大人びた笑みにかわされてしまうのだった。

「いつもこんなに悩まされるのは後にも先にも良だけよ」

不満そうに呟く加代に、良は苦笑した。

「こっちの台詞だよ」
「え?」
きょとんとして良を見上げた加代を見て、良は小さく吹き出した。

「あーあ、もう、怒る気なくすじゃないか」

変わらない。
笑うと急に人懐っこく見え、人を惹き付けるところ。

父さんの笑みに似てる、とぼんやり考えた。
いつかの夢で見た気のするよう。