加代は、自分を内心で叱咤した。

なんのために決意した。

なんのために勇気を希った。

どうか、彼を好きでいられる勇気を私に。

「ねえ、良」

あなたと違う未来で出逢えていても。

「きっと、私…」

あなたを好きになったよ。

そんな照れくさい台詞も、勢いで言ってしまえるかと思ったのに、なぜか喉に言葉が引っ掛かって出てこなかった。

好きだなんて、思うだけなら溢れてくるのに、どうしてこんなにも難しいのだろう。

声に出そうと思う度、口にしようと願う度、切なくて何も言えなくなってしまう。

ああ、また。

「なんだよ」
ぶっきらぼうだが、心なしか穏やかな良の口調に、加代は笑った。

「やっぱり、言えないみたい…」

加代は真っ白な天井を見上げて、涙がこぼれないように瞬きを止めようとした。
ごめん、と思わずこぼした。

胸が痛くなるなんて、小説によくある比喩だとしか思っていなかったのに。
縁のない話だと思っていたのに。

「………良…」
好きなんだ。
自分でも馬鹿みたいだと思うくらいに。
すすり上げた加代は、乱暴に手の甲で瞼をこすった。

「…いかないで…」
ごめんなさい、と呟いて、必死に嗚咽をこらえる。それでも顔を押さえたティッシュの隙間から頬を伝って滴が落ちた。

どうかどんな暗闇の中でも、手を繋いでいて。
そんな我儘を何度も願った。