(好きになるとは、そういうことなのだ…)

人を傷つけて傷ついて、友達に、家族に優先順位をつけて。それが致し方の無いことだとしても、そうしない方法を手探りで進みたい。

好きな人みんなの心の中心になれるだなんてはなから思っていない、だけれども。
「…………の」
あなたの、心の中の一番は。
それは。
加代は、唇を噛んで黙りこくった。

譲れるかと言われたら、嫉妬が胸に巣食うのは確実だと自分でも思えてしまったからである。

「なんでこう」
離れていても思い知らされてしまうのよ、と加代は不満げに頬を膨らませた。

ため息をついて、外の空気でも吸おうと立ち上がり廊下に続くドアを開ける。

「わっ」
「ぎゃあ」

怪物でも出たのかと心配されそうな声を上げ、加代は出くわした人物からぱっと目を逸らした。

「…お、おは」
「………」

言いかけた言葉を遮ったのは、言葉でもそぶりでもなく沈黙で、ゆっくりと、だがしっかり拒絶の意思を示すような良の視線の逸らし方に、加代は心が挫けそうになった。

「おはよう良、あの」
それでも何とか口を開いたが、冷ややかな視線に射竦められて視線が下に落ちた。

「用があるならいいなよ」
棘はないが、あたたかみもない、まさに素っ気ないというべき口調に、思わず尻込みしてしまう。