それでも、それに助けられた人もいる。
笑顔になる人もいる。

交番で迷子の届けなんかを時々処理したり、事件なんてそんなものだ。

それでも、汗を垂らして盗難被害にあった自転車を探したり、目の見えないおじいさんに笑顔で話しかけていたり、全然聞く耳を持たない人々に一生懸命「ここに駐車してはいけません!」とか話しかけていたり。

馬鹿みたいだ、と思った時期もあるにはあった。

それなのに、いつの間にかその感情は、憧憬へと変わっていた。
あんなふうになりたい、そういう思いが清四郎の心に育つのに時間はそうかからなかった。

そこまで話した晶子は、ふと懐かしそうに目を細めた。

「でも清四郎さんは優秀で、色々事件の解決を手伝ったことで昇格していって、すごく…」

言っているうちに胸がつまって、晶子は目頭に熱を感じた。

「それでもやっぱりあの人は、あんな形でいってしまった…」

五歳の少女が誘拐され、犯人が立て篭もった状況の中、説得に赴かされ逆上した犯人が発砲した。

武器を床に下ろし、犯人と対面していた清四郎は呆気なく倒れたと聞いている。

「なんて、むごい…」
はじめは信じられなかった。
何度も来てくれた夫の同僚に聞き返し、そのたびにもう声が枯れてしまうほど涙が止まらなかった。

悲しい、というより、泣く以外に方法が見つからなかったのだ。

「加代」
加代。
あの人のたった一つの忘れ形見。

思い出となるようなものは、全て見ると涙が止まらないから捨ててしまった。
私達に残された、一番尊く大切な、護りたいもの。何に替えても、それなのに。

「どうして…私じゃないの…」
その寿命を自分に振り替えることが出来たなら。
こんなに無垢な表情で眠る娘に、辛い思いをさせずに済んだ。

「ごめんなさい……」

誰にも何の罪はないと分かっていても、晶子はただそう繰り返し呟くことしか出来なかった。