「…あ」

母の後ろに、病室のドアを開けようとしていた良の姿が目に入った。

気まずげな顔をして、ドアを閉めた良を慌てて引き止めようとして、母がいることを失念していたのに気がついた。

「お母さん、この人は隣の病室の患者さんで宮城良さんと言うの。入院しているうちによく話すようになってね」
「あら、そうなんですか。娘がいつもお世話になっています」

晶子が頭を下げると、良は控えめに首を横に振って微笑んだ。

「僕こそ加代さんに元気づけられているんです。ありがとうございます」
「そんな…娘が何かのお役に立てているのなら良かったです」

恐縮し合う初対面のふたりを、加代は内心おかしく見ていた。

「じゃあ、ちょっと外に出てくるわね」
「えっ」

母の明らかに気を遣った発言に良も加代も戸惑ったが、気まずい中に居させるのもどうかと思いとどまった。

「…お見舞い?」

上目遣いに尋ねた加代に、良は吹き出した。

「そうだね。お見舞い」

どちらも患者ということに思い当たり、加代は恥ずかしくなったが、いちいち気にしないことにした。