「死ぬんですか?」

そんな声が、聞こえた。

「そうと決まったわけではありません。しかし最近発作も多いようですし、一ヶ月といいましたが、あと何日かかと…」

「…そう、ですか」

消沈しながらも涙を堪えているような声が。
落ち着いて説明しながらも悔しさを滲ませた大人の声が。

目を開けて、今すぐ、大丈夫だからそんな声しないで。そしてきっと悲しい顔をしているであろう母に、そんな顔をしないでと言いたかった。

だのに、疲れきった体は言うことを聞かなくてなんだか重い。

あと何日か。
それは一体、何日だ。
何日でこの意識が終わるんだろう。
世界が私に背を向けるのだろう。

置いていかないでと泣いても叫んでも、聞こえない暗闇に取り残されるのは、一体あとどれほど僅かな時間の後なのか。

(もう、いやだ)

治療して延命出来るのならばと入院を選んだけれど、それでも無理ならいっそ殺してほしい。

もう一秒でもこんな思いはしていたくない。
そう思うのに、思おうとしても、よぎる顔があって声があって思い出があって。

こんな世界にいたくないのに、こんな世界だからこそ私を引き留める。

それでも強制的に堕ちる時があるのなら、それに身を委ねてしまおうとひそかに考えた。

「加代」
何度目か。
名前に心を呼び戻されるのは。
「…おか、…さ」
頬を滑る涙を拭い、母は気丈に振る舞った。

「私、あと数日かはここに泊まることにしたの」
「そう…」
やっぱり、死ぬんだ。数日で。
それを飲み込んで少女はけなげに微笑んだ。