「……っ、ごほ、ごほ…」
「加代?大丈夫か」

喉を鳴る。通り過ぎる。
乾いた空気が熱くなって、少量の血とともに吐き出された。

「加代」
動揺した良だったが、ナースコールを押した。

名を呼ぶのに、呼んでいるのに、離れていく加代の意識に良は歯軋りした。

「くそっ」

一方で、熱さと苦しさに涙の滲む加代は、霞む視界の中で良だけをその目に捉えていた。
大丈夫だから、と。
口にしたいのに。
喉も、体も、多分脳も言うことを聞いてくれない。

あつい。くるしい。
助けてと言いたいけれど、言うべきなのは彼じゃない。

かは、とまた吐き出した鮮血の滴り落ちるのを認め、目を瞑った。
もう駄目だなんて。
まだ。
神様、もう少しだけ。
歪んでいく思考と視界を唯一保たせている少年の声が、また苦しそうなのが辛かった。

(笑って)
いつものように穏やかに。
それを見たいから、私は。
「……り……ょ…」
咳き込む加代を、はっとしたように振り返る良がその言葉に耳を澄まそうとする。

だから。
そんな君だから。
頑張れるよ、そう口を動かしたがすでに声は出ていなかった。
ああ、またすれ違うのか。

目尻に滑り落ちる涙もそのままに、加代はゆっくりと意識がフェードアウトするのを感じた。