がらんどうで、泣きわめくでも崩れるわけでもないのに、ただ立っているだけのような光の無い目。

私自身も、何故自分がこんなに苛苛しているのか分からなかった。

だが、子供のような母の反応が無性に苛ついて、その時はそれが悲しみを無視した反動だということに気づかなかった。

母のために大丈夫だと言っているのに、どうしてあなたがそれを否定するの。
そんな身勝手な押し付けで、私の心は一杯になっていた。
瞬時に膨れ上がった感情に、熱くなった頭のどこかで冷静な自分が唖然としているのを感じながら、私はがたんと丸椅子から立ち上がった。

「先生、ありがとうございました」

頭を下げると、母を置いて足早に病室へと帰った。誰かの焦った声が背中越しに分かったが、振り返る気はさらさらなかった。

自分の息遣いが心臓の鼓動に呼応して、荒く跳ねている。
理由もなくこみ上げたものを、嗚咽だと理解した瞬間こらえきれなくなった。

「…………っ」

廊下の真ん中でみっともない。
そんな考えがほんの一瞬脳裏を過ぎったが、追いかけてこない母や、哀れみに思える視線や、病院の匂いや言われたことや何もかもが鬱陶しくて、考えたくもなくて蓋をした。