「うわ、でか…」

二度目の雷に、良はまた腰を抜かさないように耳栓を探した。
先ほど、驚いてベッドから落ちたことはまだ記憶に新しい。

勘違いかもしれないが、壁を伝わった隣からの音が、大丈夫かと問われたような気がしたので控えめに返事をしたことを思い出して壁に背中をあずけた。

(会わないなんて約束、しなければよかった)

後悔と共に呼び起こす記憶の中の加代の声は、徐々に薄れているのだった。

「なんで俺、あんなんで、怒ったんだろうな…」

右手で無造作に髪を掻き回し、ずるずると壁を沿うように体がだるく落ちた。やがて、すとんと座り込んだままに俯く。

雷がやんだら、会いに行こう。

そう決めて晴れ晴れと顔を上げた良は、自分と同じように壁一枚越しのすぐ近くに加代がいることを信じてみることにした。

軽く二回、ほんの僅かな期待を込めて叩く。
「…………」
何回かつばを飲んで待つと、同じように二回、明るく音が響いた。
「……あー」
顔が赤くなったのを隠すように腕をかざした。

(来る、とは思ってなかった)

諦めを前提にした仄かな願いを叶えるように鳴った音は、空を切り裂く大きな雷も遠くに聞こえるくらいに、鮮明に良の耳に届く。

その空間があまりに心地よくて、壁があることすら忘れそうになった。

触れられないのに、触れているような気持ちになった良は、なんだか胸がいっぱいで言葉にならずに目を閉じた。