その日の夜、低い唸り声のような音が空から聞こえ、加代はカーテンを開けた。

その瞬間、目が眩むような光が窓を白く染め上げる。

「大きな雷だな…」

呟くと同時に、壁越しでくぐもっているが何か大きなものが落ちたような音がした。

がたたっ。

「…良?」
目を見開き、壁を指でなぞって呟く。
何があったのか。
不思議に思い、聞きたいと思ったが壁一枚は分厚く、言葉は届きそうになかった。

「…まさか、雷が恐い、とか?」

冗談のつもりで言ったが、静まり返った向こうをみるとあながち間違いでも無いかもしれない。

くすりと笑った加代は、答えはないであろうと思いながらも、大、丈、夫?というリズムで拳で壁を叩いた。

伝わるわけがない、と楽観視していた加代は、こつん、と音が伝わって息を呑んだ。

同じように三度のリズムで帰ってきたことに、返答なのだという確信が深まり、自分でも気づかないうちに笑顔になっていた。

思い起こせば、何日も会話していない。
だからこそかもしれないが、心が通じたようで喜びをかみしめた。

しかし、その直後にまた鼓膜を震わせるような大きな落雷があり、さしもの加代も身をすくめた。

ベッドの中で壁際に身を寄せ、手を添えて耳を澄ます。

すると、再びこん、こん、とノックの音があり、顔をほころばせた加代は手の甲で小さく叩き返した。

真っ暗な病室を、夜空に細い雷の筋が閃いて照らした。

声が聞きたい。

膨らんだ思いを押し込めて、壁越しに伝わるノックに託した。