「良が運ばれた?」

素っ頓狂な声を上げた加代は、看護師に再三確認した。

朝から忙しそうだとは思ったが、良が突然重篤状態になっていただなんて。
知らなかった自分を罵りながら歯噛みする。

「どんな、どんな状態なんですか、今は」

どうして寝ていられたのだろう。
どうして呑気に。

自らの首を絞めたくなりながら、焦れったそうに尋ねる加代に、看護師は落ち着いて言った。

「大丈夫です。今は容態は落ち着いています」
「…………っ……よか、った…」

急にへなへなと崩れ落ちた加代を、驚いて助け起こし、看護師は微笑んだ。

「では、お薬の時間ですね」
「うっ」

大量に処方された薬はお世辞にも楽に飲めるとは言い難く、加代は顔を歪めた。

「わかりました…」
だが、良だって戦っているのだから、こんなことは乗り越えなくてはという気持ちが、自然と加代にそう答えさせた。

その日の夕方、敏感になっていた加代は、耳敏く廊下を走るストレッチャーの音を捉えた。

首を長くして待っていた帰還に心の中で歓声をあげたいが、まだそれほどに緊張感はとかれていなかった。