それでも良は、飄々としてその次の日も、また次の日もこの病室にやって来た。

隣だからというのもあるだろうが、そんなに毎日来ていていいのだろうか?

加代は疑問に思っていたが、それを聞くと良は笑ってこう言った。

「まあ、一応ここ県の最先端の病院だからね。選択させてくれるんだよ」

理解がある、と呟いた良は、私を通り抜けて遠くを見ているように思えて、どきりとした。

何を選択するのかという問いは、言ってしまえば良が私とは違う道を選んでしまうのではないかと、それが実現してしまうのではないかと思うと怖くて言えなかった。

「まさか、家に帰るの?」
「ううん」
良は軽く首を横に振った。
「家にいてもすることないしね」
「そう」

表面上は明るく相槌を打ったが、内心では意気消沈していた。

彼と出会ってから二週間ほど経ったが、まだ桜も咲いていない。

私たちが交わした時間など、世間にとってはほんのちっぽけなものなのだなと思い知らされる。

それでも残された時間のない者にとってはその一日が、一分が、一秒が、自分の最後の日になるのかもしれないのだから思うことは計り知れない。