「娘は」

やがて、沈黙を掻き分けるように母が弱々しい声を発したのを、俯いたまま聞いた。

「…娘は、もう、手術とか、どんな手を尽くしても…例えばどんなお金がかかるものでもいいんです…娘が助かる方法は…っ」

膝の上で固く握りしめた拳の、やせ細り骨ばった手の甲が痛々しくて、愛情を込めてその腕に抱かれた感触が蘇った。

私がこんなせいだから気疲れさせてしまうのかと、優しくさせてしまうのかと思うとどうしようもなく胸がきしんだ。

「残念ながら…」

そんな患者の対応にも慣れているであろうに、心苦しいという表情を浮かべる担当の先生に、いいんですという言葉が口から飛び出していた。

「…加代?」
「わかりました。母さん、そんな顔しないで」
「加代!」

突然、激しい声が鼓膜を震わせた。

まっすぐに私を見据える母の瞳から、思わず目を逸らす。

「…なに?お医者さん達の前なんだから、大声出さないで」

抑えた声音で語る。
これ以上、自分自身に希望を持たせたくない。
母を、悲しい顔のままにさせたくない。

「私は大丈夫だから」
「大丈夫なわけないでしょう!?」

激情をそのまま声に乗せたような母の叫びに、驚いて私は硬直した。

どうして?

「…大丈夫だよ」
「そんなはずないじゃない、まだ若いのに、まだ、まだ」

声を震わせて語ろうとする母に、加代は本気で訳が分からないと言ったような表情を浮かべる。

どうして、解らないの?

「母さん、落ち着いて。お医者さんの説明で分かったよ。病室に戻ろう」

苛立ちを含んだ私の声に、母は抜け殻のような双眸をこちらに向けた。