そこで、加代ははっとした。

(私の言ったことと、同じだ…)

自分だってさっき、母に迷惑をかけたくないと言っていたではないか。その思いはもう忘れるほど薄情なものではないし嘘でもなかったのに、他人の口から聞くとこうも否定したくなるのか。

(だって、良は必要とされている……)
確証はないが、加代は言い切ることが出来た。

今、私がこんなにも良と話せて良かったと思っているのに。
どうして胸が刺されるように痛むのだろう。

「………」

こちらを見ずに、窓の外をぼんやりと眺めている良の端正な横顔をちらりと見つめ、加代は理解してため息をつきかけた。

私のいる世界を、生きる理由と見てくれないからだ。
でも初対面でそんなことを言ったら、軽い女と見られるのは嫌だった。

同じ境遇の中での考え方の違いや、笑い方や、そんな色々に惹かれたのに見た目ということでひとまとめにされるのは耐え難かった。

愛とか恋だとか、そんな感情には直結しない。
それでもいてくれると嬉しくて、それだけで世界が少し華やぐような。それほどの存在には、もう良はなっているというのに。

会ってからの時間は多くはない。
けれど、感じたことやもらったことは、今までの単調な生活の中でよりずっと多いと加代は黙って考えた。

残りの命が少ないという、共感できる人のそれほどは多くない綱渡りのような不安な状況の中で得た理解者というのは、あるいは肉親よりも分かることの出来る存在なのかもしれないと。

その日、ババ抜きは静かに終わった。