「…家には、帰りたい。でも、少しでも命の伸びる可能性があるなら…そう思うとどこか惜しい気もしてしまうの、馬鹿ね」

遠回しに入院すると泣き笑いのような顔で告げた加代に、母は「そう」と静かに言い、それを受け入れると言った。

「どんな選択でも、あなたの意思を尊重するわ。でも、いつでも帰ってきていいのよ。待っているわ」
「…………っ…」

ふいに胸がつまった。

優しすぎるよ。
絞り出した声に、どうして、と聞き返す母に加代は身をよじらせて溜め込んでいた言葉を吐き出した。

「私なんか、今までお母さんに酷いことたくさん言ったじゃない。何の役にも立てなかったし、私と暮らしても楽しくなかったでしょう?苛つくことばかりだったはずなのに、なのにどうして娘だからってだけでこんなに」

そこまで言うと、加代はただ激しく泣きじゃくった。
それ以上言葉を継げなかったのだ。

そんな加代の手を握り、母────晶子は、加代を穏やかになだめた。

「そんなことなかった。加代の不器用な優しさを、私はちゃんと知ってたわ」
「………おか…」
言いかけた加代に、晶子は微笑んだ。
「大きくなったね」

その一言は、何気ない一言だった。
けれど、全てが詰められた一言だった。
決壊した涙腺を押しとどめようと、加代はひたすらに溢れ出る涙を拭っていた。