「さっきは私も意地を張ってごめんなさい。なんだか気が立っていて、苛苛してしまったの」

素直に謝った娘に対して、母もすぐに頭を下げた。

「私も、ごめんなさい…余計なお世話だったわね。あなたの気持ちなんてあなたにしか分からないのに、勝手に怒ってしまって」

申し訳なさそうなかおをする母に、私は首を振った。

「…嬉しかったよ。私のこと、思って言ってくれたんでしょう」
「…加代…」
何度も頷いて、言葉にならない様子の母の目には光るものが滲んでいた。

「もう、泣かないでよ！」
つい、笑ってしまった。
痩せた母の背に手を当ててさすると、あたたかくて思わずもらい泣きしそうになる。

しばらく見守っていた看護師は、いつの間にか退室していた。
気を遣わせてしまったかな、と加代が気にしていると、母が遠慮がちに問うた。

「加代は、今後はどうするつもり？入院するのかしら。それとも、一緒に家に帰る？」

心から加代のことを一番に思ってくれている声音だったが、やはりその瞳の奥には家に帰ってきて欲しいという希望が垣間見えた。

加代にもそれをなんら断る理由はなく、むしろ家に帰りたいはずだったのだが。