呼ばれている。
意識の外、記憶の中から。
名前を呼んでいる。
どこ?
だれ、と声を出そうとして、ああそうだ、私はこの声の主を知っていると思った。
なぜだかわからないけれど、そばにいてくれる人だと感じた。

優しくて切なくて、声を聞けるだけで泣きそうになるほど嬉しいような人で。
どこで出会ったのかと記憶を巡らすうちに、塩辛い滴が眦を濡らしていた。

「…………こ、こは」
「病室ですよ。加代さん、目が覚めましたか」
「あ…はい。分かります」

内心良のいないのにがっかりする気持ちは抑えられなかったがそう答え、肘で上体を支えて起き上がろうとする加代を、看護師が手を添えて手伝った。

「…本当に、ごめんなさい。ご迷惑をかけて」
しかし私がそう言うと首を横に振り、よくあることなんです、と言った。
「誰だって心を乱して、きついことを言ってしまうことはよくあるんですから、その後謝ることが大事ですよ」

咲きほころぶ花びらのような笑顔に、加代も心を開いたようでほっと息を吐いた。

「そうですね…お母さんと、話し合ってみます」
今後の身の振り方を、と寂し気に呟いた少女を見て、看護師になってからは何度目かの光景だが変わらずに痛みを覚えた。