「お兄ちゃん、やっぱり食べないみたい。」
あたしの笑顔にお父さんは、わかっていた、とでも言うかのように微笑む。
そんな貼り付けたような笑顔を浮かべたまま、お寿司が入っているであろう箱を包んでいる風呂敷を広げ始めた。
「めちゃくちゃ美味しいからな、味わって食べるんだぞ!」
たしかに美味しいんだろう。
彩り豊かなお寿司たちを前に、あたしも変わらぬ笑顔を浮かべ、おいしそう、と取ってつけたように言った。
普段家にいないぶん、罪悪感があるのかもしれない。
お父さんは出張から帰ってくると、いつもお土産というには高価ななにかを買ってくる。
歪、としか言いようがない空間だった。
不自然なくらいに満面の笑顔を浮かべるあたしとお父さん。
そんなあたしたちと目を合わせようともしないお母さん。
味のしない寿司を口の中で必死に咀嚼して、なんとか飲み込む。美味しい、って言葉をつけて。その繰り返し。
最後の一つを食べ終わり、ごちそうさまを言うと同時に席を立つ。
もう笑顔を浮かべるのが難しかったから、逃げるようにリビングをあとにした。



