そういえば、誰だっけ。
昨日流星が「調べておいて」って言ってた作家さん。

あさぎり、までは完璧に覚えてる。
あさぎりあきら、だった気がする。

慣れた手つきで検索エンジンを開き、あさぎりあきら、と打ち込む。
漢字まで聞いておけば良かったなあ、と思いつつ、エンターキーを押した。


──あたしがそれを押したのと、ほぼ同時だった。

ガチャ、と玄関のドアが開いた音がしたかと思うと、「ただいまー!」と少ししゃがれた声が聞こえてきた。


懐かしい、とまではいかないけど、久しぶりに聞いたな、とは感じる。

努めて笑顔を作ってから、部屋の扉を開けて玄関に向かって明るい声を出した。


「お父さん!おかえり!」


お父さんはあたしを見つけると、顔をパアッとほころばせた。
そのまま玄関にカバンとたくさんの紙袋を放って階段を駆け上り、あたしのことを抱きしめる。


「今回の出張も長引いてごめんな、寂しかったか?」
「そんなことないよ、学校楽しいし、友達もいっぱいいるし。」


お父さんのスーツから香ってくる汗とタバコの残り香。
お父さんは禁煙成功したって言ってるけど、隠れて知ってること、あたしにはバレバレだ。