「…なんで…」

たまらなく、一つ一つが刺さって俯いた。

言葉が痛いんじゃない。

その瞳が、向けられると思わなかった冷たい作り笑顔が、自分に向けられたことが突き刺さるように何より痛い。

守って欲しいわけじゃなかった。
こんなふうに、傷つけさせたいわけじゃなかった。

「ほんとに…?」

聞き返した声が揺れた。

信じていたはずなのに、君の口調に心が折れそうになる。

それでも、ここで諦めたら、壊れて二度と戻らないものがある気がした。

「君は、誰かのためにそんなに優しい嘘をつける人なんだろうね」

それでも。

「その嘘で、守られるほど弱くない」

しばらく睨み合った二人だが、先に音を上げたのは大和の方だった。

「分かった。降参だよ。全く、お前って奴は飽きれるほど女子らしくないよな」

「余計なお世話」

小さく舌を出すと、葵は眉を下げて笑った。

「ありがとう」

「ん」

じゃあな、と口の中で転がすように呟いた大和は、遠ざかる葵の後ろ姿を、けぶる雨の中で消えゆくまで見つめていた。