「どうしても、行くんだよね」

「うん」
迷いなく頷いた佐島に、小夜は仄かに泣きそうに笑った。

「そう言うと思った」
「…小夜」
ためらいがちに名を呼んだ佐島に、首を振る。

「今、一番傷ついているのはきっと葵だから。お願い、行ってあげて」

「分かった」
出ていく間際に、ありがとう、と口の形を動かして笑った佐島を見つめて、小夜は精一杯の力で笑い返した。

完全に足音がしなくなったのを聞き届けてから、小夜は床にくずおれた。

「…………っ……」

膝を両手で抱えると、必死に嗚咽を抑えようとする。

今辛いのは葵だ。

私じゃない。
葵が苦しんでいるんだ。

言い聞かせて止めようとしても、涙は勝手に出てきて、小夜はそれを腹立たしく思った。

最後まで私のためだった。

器が違う、と呟く。

どうして葵は、私の友人の彼女は、ああまで一生懸命になれるのだろう。

傷つけた私なのに、優しくする価値もないのに、わざわざ悲しい嘘をついてくれてまで。

その決意を返せるだけの自分になりたくて。

だのに、そんなことをされたらますます遠ざかっていくばかりだ。

「会いたいよ…」

今はその優しさが、あの眼差しが、何にも代えがたく恋しかった。