完全に、玉砕すると知っていて。

それでもなお、小夜は顔を上げた。

大切な友人の思いを、背中を押してくれたことを、無駄にしないために。

「好きだったの。佐島のこと」

吹き抜けた風に、言葉をさらわれないように。

ちゃんと声を出して言ったのに、その声は震えていて上手く伝わりやしないかと心配する小夜を見て、佐島は深く頭を下げた。

「ごめん」

「…いいの。分かっていた」

軽く微笑んだ小夜に顔が上げられず、そのままだった佐島に声をかけた。

「佐島」

重みのある雰囲気に、佐島は背筋を伸ばした。

「絶対に」

絶対。

「葵を幸せにして」

それぞれ特別な人が出来ても、変わらない大事なもの。その人。

それを託すと、小夜は佐島の目を見て言った。

たとえ自分が、傷ついても。