「東京の練馬区から来たそうだ。仲良くしてやってくれ。席は…佐島の隣でいいかな」

(ええ)

しかし、葵が唯一興味を持ったのはそこだった。

(いいな…)
少し羨ましげな視線をその席に送っていると、瀬見川大和がちらりと葵の方を振り向いたので、慌てて視線を逸らした。

気づかれたかと葵は冷や汗をかいていたが、他のクラスメイトはまた違った思い思いの視線を送っていた。その中には勿論敵意めいたものも含まれていて、出る杭は打たれるのか、と少し転校生に同情した。

午後、転校生を囲むように出来た人だかりを横目で見ながら、葵は歌詞を書いていた。

必然的に佐島も身動きの取れにくいことになっているので、アドバイスは期待せずに自由に書いている。

だが、青春らしい言葉をいくら組み合わせても、心に訴えかけるものがない。

当たり前か、と葵は肩で息をついた。

心がこもっていなければ、心に響くわけがない。そんなのは自明の理だ。