自分と同じように場の空気を察し、取った行動の違いに温度差が滲み出る。

(小夜は、佐島を呼びに行くんだ)

自分に来たのと同じように、小夜が佐島に駆け寄り、佐島も「小夜、どうした」と答える光景を思い浮かべてしまって、胸が糸で縛られたように痛んだ。

(違う違う、今は合唱コンだ)

顔を引き締める葵だったが、幾分かやる気が下がったのは否めないでいた。

「最初からこれか」

上手くいかないもんだな、とみんなが帰ったあとの教室で呟いた佐島に三上も小夜も、例外なく葵も頷く。

「でも最初の方こそこんなものじゃない?」
「たしかにな」

ぽんぽんと言葉を交わす二人を見られなくて、俯き加減になった葵に佐島が声をかけた。

「歌詞が出来ればやる気も起こるんじゃないかな。頼むよ」

自然体の口調に、佐島は誰でもそうなんだと思い知る。

遅れた返事の不自然さを取り戻そうと、明るく笑みを作り頷き返した葵を、小夜が何か言いたげに見たが結局何も言わなかった。