「だって葵が人を好きになるって珍しいじゃん。私だって気になっちゃうよ」
おどけた科白に、つられて葵も笑ってしまう。

「人を朴念仁みたいに言うな。私だって人並みに、…その」
途中で言葉に詰まる葵に、小夜は盛大に吹き出した。

「葵、あんたってほんといい味してる」
「…褒め言葉?」
「もちろん、褒め言葉褒め言葉」

乗せられた気がしなくもなかったが、取り敢えずそこには突っ込まないことにした。

「というか葵、ピンチだよ。佐島くんともうひとりの女子、あの沙也香なんだから」
一転して真面目な声音になった小夜を、葵は思わず見つめ返した。

「鈴木さんか…」
「そう。佐島くんて、普段目立つタイプじゃないけど女子への気配り上手だし、顔もそこそこだからわりに人気あるのよ」
「知ってる。けどなんで上から目線」
そこそこって、と笑った葵に、小夜は少し含みを持たせて言った。

「笑い事じゃないよ。あの沙也香が狙っちゃったらどうなるか…頑張りなよ」
さらさらのセミロングの髪を揺らし、忠告してくれた小夜に葵は微笑んだ。